学外リソースの活用
執筆:宮城愛美([視覚障害学生の修学支援]担当)
先日、この春から視覚障害学生を迎える大学を中心に、支援に関する情報を共有する会を開きました。様々な課題について話し合われましたが、やはり、話題の中心は教科書や資料の提供に関するものでした。特にテキストデータ化の作業にかかる時間や作業者の負担があげられました。そのような負担の軽減に繋がるかもしれない、日本点字図書館のサービスを紹介しましたので、こちらでもご案内いたします。
「アクセシブルな電子書籍製作実験プロジェクト」 参加者募集中!
http://www.nittento.or.jp/news/tdaisy2016.html
上記の紹介ページは専門的な内容が多いため、ややわかりづらいかもしれませんが、紙媒体の書籍をテキストDAISYという形態に変換して提供してくれるというものです。テキストDAISYは、録音図書の規格ではありますが、テキストデータと同様にPCなどで読み上げることができる形式のデータです。本学でも、学内のテキストデータ化が間に合わない時に、修士の学生が文献のデータ化で利用した経験があります。各大学の教科書や資料の提供にも活用できると思われます。
先日の会では、学生の修学環境の整備は大学の責任ではあるが、負担が大き過ぎて継続できないという事態は避けなければいけない、ということをあらためて確認しました。今後も、今回あげたような学外リソースの活用に関する情報をより多く提供できればと思っています。
ろう者学
執筆:管野奈津美([ろう者学]担当)
3月も残りわずかとなり、卒業・入学シーズンに突入しましたね。この時期になると、自分が大学に入学した時に直面した出来事をいつも思い出します。
幼稚部から高等部までずっと聾学校で育った自分にとっては、初めて聞こえる学生と肩を並べて学ぶことになり、不安と期待が入り交じっていた時期でした。入学から少し経った頃、履修登録期間中、どの授業を選択しようか悩んでいる時に、授業で一緒になった聞こえる友人が「あの先生はレポートが多くて厳しいらしいよ」「この演習は〇〇を作れるから面白いらしいよ」などと筆談で教えてくれました。「その情報、どこから得たの?」と聞くと、「そこで他のクラスメイトが話してるのをちらっと聞いた」「廊下で会った先輩が言ってた」と言うではありませんか。私はずっとシラバスとにらめっこしていたのですが、友人達はそれらの情報を合わせて「この先生嫌だな」「面白そうだから取ってみる」と選択していました。聞こえる人は大学内にいるだけで、あちこちで話されている会話の内容を聞き取り、自然に多くの情報を得ているのです。
幸い、その友人が耳にした情報を教えてくれたのと、心配した担任が相談に来なさいと声をかけてくださったおかげでなんとか履修計画は無事決まりましたが、自分は聞こえる学生と比べるとずいぶん限られた情報の中で選択し決定していかなくてはいけないんだということを思い知らされた事件でした。
近年は情報保障体制の整備が進み、講義内容の情報は確保できるようになってきましたが、大学で生活するために必要な情報、学生間で交わされる共通の話題やその雰囲気というのは、聞こえない学生にはなかなか入ってきませんし、限界があります。講義内容の情報保障の提供も大事ですが、キャンパスライフで得られる「生きた(口コミ的な)情報」もなるべく何らかの形で提供し、様々な情報の中で選択・決定する経験を積み重ねていけるようフォローしていくことも、これから求められる大学の在り方ではないでしょうか。